2026年度、Stretch Supportは信州SOIP(Sports Open Innovation Platform)に共創提案者として参加し、フットサルクラブのボアルース長野と共創に取り組むことになりました。
私たちが提案したのは、プロスポーツクラブと地域がともに、子どもたちの成長を支える育成環境をつくる「地域共創型ジュニアアスリート育成モデル」です。
なぜ、地域の育成環境に着目したのか。プロスポーツクラブと地域が一緒に取り組むことで、何ができるのか。そして、今回の共創を通じて何を確かめたいのか。
具体的な事業内容は、これからボアルース長野との対話を通じて設計していきます。だからこそその前に、今回の提案の背景にどのような問題意識があり、現時点で何を考えているのかを、一度整理しておきたいと思います。
信州SOIPへの共創提案から始まった
今回のきっかけとなったのが、信州SOIPです。
信州SOIPでは、プロスポーツクラブと企業・団体などがそれぞれの強みを持ち寄り、地域課題の解決と、新たな地域事業の創出につながる共創が進められています。
今回示された共創テーマの一つが、スポーツを通じた「住み続けられる街づくり」でした。
スポーツを通じた「住み続けられる街づくり」を考えるとき、イベントや教室など、新しい機会を地域につくることも一つの方法です。
一方で私たちは、新しい機会を増やすことに加えて、すでに地域にある知識や人材、活動をどうつなぎ、子どもたちの育成環境として活かしていけるかに着目しました。
背景の一つに、学校部活動の地域展開があります。
これまで学校を中心に行われてきたスポーツ活動が、地域クラブや地域の指導者、スポーツ団体などへ広がりつつあります。
ただ、私たちが考えたかったのは、「学校から地域へ活動の場を移すにはどうすればよいか」だけではありません。
子どもたちのスポーツを支える環境には、これまでもさまざまな課題がありました。地域展開が進む今、それらも含めて、地域の育成環境をどうつくり直していくか。
その問いから生まれたのが、今回の「地域共創型ジュニアアスリート育成モデル」です。
単発のプログラムを実施することにとどまらず、学校、地域、プロスポーツクラブ、専門家などが持つ知識や経験をつなぎ、地域全体で子どもの成長を支える環境として継続的に活かしていく。
それが、今回の提案の出発点です。
なぜ「地域の育成環境」に着目したのか
子どもたちがスポーツを続けていく過程には、多くの大人や専門家が関わります。
日々の練習を支える指導者がいて、家庭では保護者が子どもを見守ります。身体に問題があれば医療機関を受診することもありますし、トレーニングや栄養について専門家の力を借りることもあります。
一方で、こうした環境にはいくつかの課題があると考えています。
たとえば、成長期の身体や育成に関する知識・経験には、指導者によって差があります。
身体や栄養、医療の情報も、インターネットを通じて数多く手に入ります。しかし、その子どもや状況に合った専門知にたどり着くことは、必ずしも簡単ではありません。
保護者も同じです。
情報が少ないのではなく、むしろ多くの情報の中から、何を信頼し、何を自分の子どもに当てはめるべきかを判断することが難しくなっています。
他方で、地域には指導者、医師、トレーナー、栄養士、スポーツクラブなど、それぞれの分野で知識や経験を持つ人たちがいます。プロスポーツクラブにも、選手育成や競技現場を通じて蓄積されてきた専門知や実践知があります。
つまり、地域に何もないわけではありません。
知識も、人材も、実践も、すでに存在しています。
それでも、それぞれが個別に存在するだけでは、その価値が十分に活かされるとは限りません。
必要な人と専門家がつながること。得られた知識が日々の指導や家庭での関わりに活かされること。現場で生まれた気づきや課題が共有され、次の実践につながっていくこと。
今回考えたいのは、まさにこの部分です。
新しい知識やサービスを外から持ち込むだけではなく、地域にすでにあるものと、プロスポーツクラブの専門知や経験を掛け合わせ、子どもたちの日常の育成に活かせる環境をつくれないか。
そして、一度つないで終わりにするのではなく、実践し、振り返り、改善しながら、地域の中に知識や経験が蓄積されていくようにできないか。
それが、「地域の育成環境」に着目した理由です。
地域にある知識や経験を、どう結びつけるのか
とはいえ、単に関係者を集めればよいわけではありません。
プロスポーツクラブ、地域の指導者、医療やトレーニングなどの専門家、学校や保護者。それぞれが持っている知識や経験は異なります。
そして、それらはそのまま別の立場の人に活用できるとは限りません。
専門家にとって当たり前の知識でも、保護者には理解しにくいことがあります。トップレベルの競技現場で有効な方法が、育成年代の子どもにそのまま適しているとも限りません。
逆に、地域の指導者や保護者が日々感じている課題は、外から見ているだけでは分からないこともあります。
だからこそ必要なのは、知識を一方向に「提供する」ことではなく、誰が、どのような場面で、何に困っているのかを理解し、その人が実践できる形に知識を編集していくことだと考えています。
プロスポーツクラブの知見を地域にそのまま持ち込むのではなく、地域の課題や現場の声と掛け合わせながら、その地域で使える形へと変えていく。
そうした関係ができれば、知識を地域の中で使い、育てていくことができるのではないかと考えています。

図1では、プロスポーツクラブ、地域の指導者、専門家、学校・保護者が持つ知識や経験を「対話・共同設計」へ持ち込み、子どもたちの日常の育成環境につなげる構造を整理しています。
Stretch Supportが担いたいのは、すべての専門知を自ら提供することではありません。
異なる立場にある人たちをつなぎ、知識や課題を整理し、実践につながる形へ編集する。そして、共同設計から実践へ進むプロセスを支えていくことです。
知識を「届ける」だけで終わらせない
講習会やセミナー、スポーツクリニックなど、一度の学びや体験にも大きな価値があります。
一方で、その場で知識を得ることと、その後の日常で実践されることは同じではありません。
たとえば、指導者研修で新しい考え方を学んでも、実際の練習の中でどう使えばよいか分からなければ、以前の指導方法に戻ってしまうかもしれません。
保護者が子どもの身体や成長について学んでも、それを家庭でどう活かすかまで整理されていなければ、知識だけが残ることもあります。
だから今回の取り組みでは、知識を伝えるところで終わらせず、実践し、その結果を振り返り、改善して次の取り組みへ戻していくところまでを考えたいと思っています。
共同設計 → 実践 → 評価 → 改善 → 共有・蓄積 → 次の共同設計へ
プログラムを一度実施して完成させる、という考え方ではありません。
実際に地域で行ってみる。変化や課題を確かめる。うまくいかなかったところがあれば改善する。そこから得られた学びを共有し、次の共同設計へ戻していく。

この循環をつくることができれば、プロスポーツクラブが持つ知識も、地域の指導者や専門家が持つ経験も、一度届けられて終わるものではなく、地域の中で蓄積され、次の実践へ活かされていきます。
今回の実証では、個別のプログラムだけでなく、こうした循環そのものが地域で機能するのかも確かめたいと考えています。
ボアルース長野との共創で、何を確かめたいのか
今回の共創に、最初から完成した答えを持ち込むつもりはありません。
むしろ、いくつかの仮説を実際の地域で確かめていくことが、今回の実証だと捉えています。
特に確かめたいのは、次のようなことです。
- プロスポーツクラブ、地域の指導者、専門家、保護者など、立場の違う人たちが一緒に育成環境を考えることができるか
- それぞれが持つ知識や経験を、子どもたちの日常のスポーツ活動に活かせる形へ変えられるか
- 一度のイベントやプログラムで終わらず、実践・評価・改善が続いていく仕組みにできるか
- 実証が終わったあとにも、地域に知識や関係性、運営のノウハウを残せるか
もちろん、これらがすべて実現できるとは限りません。
どこで難しさが生まれるのかも含めて確かめることに、実証の意味があると思っています。
特に、多様な主体が関わることは可能性を広げる一方で、合意形成や役割分担を複雑にします。
誰が何を担い、誰が意思決定するのか。どこまでをプロスポーツクラブが担い、どこからを地域が担うのか。
こうした運営面も、プログラムの内容と同じくらい重要な検証対象になると考えています。
最初のテーマとして考えている「成長期の身体づくり」
共創提案の段階では、このモデルを最初に実証するテーマとして「成長期の身体づくり」を設定しました。
理由の一つは、競技種目を問わず、多くの子どもたちに関係するテーマだからです。
成長期には身体が大きく変化します。
競技力を高めるためだけでなく、ケガを予防し、長くスポーツを続けるためにも、自分の身体について理解し、適切な身体の使い方を身につけていくことは重要です。
また、身体づくりというテーマであれば、子どもだけでなく、指導者、保護者、医療やトレーニングの専門家など、多様な立場の人が関わることができます。
身体機能や動作の変化など、実践前後の変化を一定程度可視化しやすいことも、実証テーマとして選んだ理由の一つです。
共創提案では、指導者、保護者、ジュニア、地域専門人材、評価という複数のプログラムを組み合わせながら、身体づくりを地域全体で支える仕組みを検証する構想を置いています。
ただし、これはあくまで現時点での仮説です。
「成長期の身体づくり」というテーマを含め、実際に地域で何を行うべきかは、これからボアルース長野との対話を通じて改めて考えていきます。
クラブがこれまで地域で行ってきた活動や、現場で感じている課題を聞けば、提案時には見えていなかったことが出てくるかもしれません。その場合には、提案内容を変えることも必要だと思っています。
共創である以上、提案書をそのまま実行することよりも、関係者と一緒に問い直しながら、より適切な形へ変えていくことの方が重要だからです。
実証後、地域に何を残せるか
今回の取り組みを考えるうえで、もう一つ重視していることがあります。
実証が終わったあとに、地域に何が残るのか。
ということです。
プログラムを何回開催したか。何人が参加したか。満足度が何%だったか。
こうした数字も成果の一つですが、それだけでは地域の育成環境がどう変わったのかは分かりません。
今回、実証後に地域へ残したいものを、「仕組み」「知見」「データ」「関係性」「発信」の5つに整理しています。
「仕組み」は、次にも使える運営やプログラム。
「知見」は、実践から得られた学び。
「データ」は、成果と課題を判断する材料。
「関係性」は、人や組織のつながり。
そして「発信」は、学びや成果を共有し、次の参画につなげるための土台です。

ここで重視したいのは、「何を実施したか」だけではなく、「実施した結果、次に使える何が地域に残ったか」という視点です。
こうしたものが地域の中に蓄積されていけば、一つの事業が終わっても、その経験をもとに次の取り組みをつくることができます。
その積み重ねが、地域の育成環境そのものを少しずつ変えていくのではないかと思っています。
答えを持ち込むのではなく、共につくる
今回の共創提案書には、Stretch Supportとして考えてきた一つの仮説があります。
地域には、すでにさまざまな知識や経験、人材がある。
プロスポーツクラブにも、競技や育成の現場で蓄積された実践知がある。
それらを結びつけ、地域の日常の中で実践し、評価し、改善していけるようにすれば、子どもたちの育成環境をより良くできるのではないか。
一方で、この仮説が本当に地域で機能するかどうかは、まだ分かりません。
提案書に書いた内容が、ボアルース長野や地域にとって最適な形であるとも限りません。
だからこそ、これから始まる対話を大切にしたいと思っています。
ボアルース長野がこれまで積み重ねてきた活動や地域との関係。クラブが感じている課題。地域の指導者や専門家、保護者の声。
そうしたものを聞きながら、私たちの仮説も問い直していきます。
提案したものをそのまま実行するのではなく、対話の中で変えながら、一緒につくっていく。
今回試したいのは、プログラムそのものだけではありません。
プロスポーツクラブと地域が、ともに育成環境を考え、つくり続けていくことができるのか。
そのプロセス自体も含めて、これから確かめていきたいと思います。
9月から、ボアルース長野との具体的な対話が始まります。
そこで何が見えてくるのか。提案時に考えていたことのうち、何が変わり、何が変わらないのか。
その過程についても、今後記録していきます。