スポーツと地域
部活動の地域展開における本質的な課題とは?
中学校の部活動を学校だけで支えるのではなく、地域全体で支えていく「部活動の地域展開」が全国で進んでいます。
その課題として、まず挙げられることが多いのが「指導者不足」です。
もちろん、指導者の確保は大きな課題です。しかし、地域展開について調べていくと、それだけでは説明できない問題が見えてきます。
活動場所をどう確保するのか。学校や保護者との調整を誰が担うのか。保険や会費、大会参加の手続きをどうするのか。継続するための財源をどう確保するのか。
一つひとつを見ると異なる課題ですが、その背景には共通する問いがあるように思います。
地域にある人、組織、施設、知識や経験をどう組み合わせ、子どもたちのスポーツ環境として機能させていくのか。
この記事では、部活動の地域展開をめぐる現在の状況や地域の事例から、その本質的な課題と、持続可能な地域スポーツに必要な仕組みについて考えます。
部活動の地域展開は、「移す」段階から「運営する」段階へ
部活動改革は、2026年度から新しい段階に入っています。
2023年度から2025年度までの「改革推進期間」を経て、2026年度から2031年度までは「改革実行期間」と位置づけられました。前期となる2026年度から2028年度には、休日の部活動について地域展開を進めることが目指されています。
また、これまで使われてきた「地域移行」から、「地域展開」という言葉が使われるようになっています。
重要なのは、学校が担ってきた活動をそのまま地域へ移すのではなく、地域にある多様な資源を活用しながら、新しいスポーツ環境をつくることです。
つまり、これから問われるのは「地域へ移せたか」だけではありません。
その先で、誰が、どのように運営し、継続していくのか。
制度を移行することから、地域で実際に仕組みを動かすことへ。部活動改革は、そうした段階に入っていると考えられます。
見えてきた課題は、指導者不足だけではない
地域展開を進めるなかでは、さまざまな課題が指摘されています。
指導者をどう確保し、質や安全を担保するのか。活動場所や移動手段をどう確保するのか。指導者への報酬、保険、施設利用料、運営費を誰が負担するのか。
さらに、参加者の募集、会費の徴収、施設予約、大会へのエントリーといった事務も必要です。学校、地域クラブ、行政、保護者との連絡や調整も欠かせません。
こうして並べると、地域展開で必要なのは「競技を教えられる人」だけではないことが分かります。
では、なぜこれほど多くの課題が同時に生まれるのでしょうか。
「指導者がいない」という問題を分解してみる
これまでの学校部活動では、教員が競技を教えるだけでなく、多くの役割を担ってきました。
日々の活動を見守る。安全を管理する。保護者へ連絡する。大会へエントリーして引率する。活動場所を管理する。
地域展開にあたって、これらすべてを担える「先生の代わり」を地域で探そうとすれば、その条件を満たす人は限られます。
一方、役割そのものを分けて考えることはできます。
- 競技を教える人
- 日々の活動を支える人
- 身体づくりなど専門的な知識を提供する人
- 事務を担う人
- 学校や行政との調整を担う人
一人ですべてを担うのではなく、それぞれが持っている専門性や経験を生かす。
すると、問いも変わります。
「指導者を何人集められるか」ではなく、「地域にある役割や専門性を、どう組み合わせるか」。
ここに、部活動の地域展開を考える一つの重要な視点があるのではないでしょうか。
地域によって、必要な仕組みは違う
実際、地域展開の方法は地域によって異なります。
長野県南佐久郡では、6町村が連携して地域クラブ活動を運営しています。南佐久郡中学校部活動運営委員会を設置し、統括コーディネーターが会議の運営、指導者への報酬や旅費の支払い、保険手続き、書類管理などの事務を担っています。
一つの自治体だけですべてを抱えるのではなく、複数の町村で人材や運営機能を共有する仕組みです。一方で、広域化することで移動の問題も生まれます。南佐久郡ではJR小海線やバスなども活用しながら活動を支えています。
そして、私が暮らしている長野県御代田町でも、部活動の地域展開が進められています。
2025年度には、長野県の実証事業のなかで、ICTを活用して地域外の専門的な指導を取り入れる試みも行われました。
こうした事例を見ると、地域展開に一つの完成形があるわけではないことが分かります。
人口規模、移動手段、既存のスポーツ団体、施設、指導者や専門人材。地域によって持っている資源も、足りないものも違います。
だからこそ、どこかの成功モデルをそのまま導入するのではなく、
「その地域には何があり、何が足りないのか」から考える必要があります。
必要なのは、地域の資源を「編集する」機能ではないか
地域には、すでにさまざまな資源があります。
学校、地域スポーツクラブ、競技経験者、行政、企業。地域によってはプロスポーツクラブや大学、トレーナーや栄養士などの専門人材もいます。
しかし、それぞれが存在していることと、それらが子どもたちのスポーツ環境として機能することは同じではありません。
誰に、どんな役割を担ってもらうのか。学校と地域は何を共有するのか。足りない専門性をどこから補うのか。費用をどう負担し、継続できる仕組みにするのか。そして、実践から生まれた課題をどう改善していくのか。
複数地域の取り組みを見ると、コーディネーターや運営事務局など、関係者をつなぎ、活動を動かす機能の重要性が見えてきます。
私は、この役割を単に「つなぐ」だけではなく、地域の資源を編集することとして捉えることができるのではないかと考えています。
ここでいう編集とは、情報を整理したり、分かりやすく伝えたりすることだけではありません。
地域にどんな人や組織がいて、どんな知識や経験を持っているのかを知る。子どもたちや地域が抱えている課題を捉える。そのうえで必要な人や専門性を組み合わせ、プログラムや運営の仕組みとして形にする。そして、実践して終わるのではなく、そこで起きたことを見ながら改善する。
言い換えると、
知る → つなぐ → 形にする → 実践する → 改善する
という一連のプロセスです。
スポーツの現場にある知識や経験は、それだけで必要な人へ届くわけではありません。同じように、地域に人材や施設、組織が存在していても、それだけで持続可能なスポーツ環境になるわけではありません。
地域にある価値を見つけ、必要な形へ組み替え、実際に機能する仕組みにする。
部活動の地域展開では、こうした「編集」の機能も重要になるのではないかと考えています。
ただし、「つなぐ」だけでは解決しない
一方で、コーディネーターや運営事務局を置けば、すべてが解決するわけではありません。
人口が少ない地域では、そもそも指導を担える人やスポーツ団体自体が限られている場合があります。
複数地域をまとめれば選択肢を増やせても、今度は移動距離が長くなります。民間企業やスポーツスクールを活用しても、費用を参加者だけで負担すれば、家庭の経済状況による体験格差につながる可能性があります。
つまり、「地域の資源をつなぐ」という考え方も、つなぐことのできる資源が存在することを前提にしています。
だからこそ、一つの完成モデルを探すのではなく、人材、施設、交通、財源、既存団体など、その地域の条件から考える必要があります。
そして、最初から完璧な仕組みをつくるのではなく、実践し、評価し、改善することまでを運営の一部として設計する。
そこまで含めて地域展開を考える必要があるのだと思います。
地域展開を、地域スポーツをつくり直す機会に
部活動の地域展開には、教員の負担軽減や少子化への対応という重要な背景があります。
しかし、学校が担ってきた負担を、そのまま地域の誰かへ移すだけでは、持続可能な仕組みにはなりません。
考えたいのは、
これからの地域で、子どもたちがどのようにスポーツと出会い、続け、成長できる環境をつくるのか。
という問いです。
学校、地域クラブ、指導者、保護者、行政、企業、プロスポーツクラブ、地域の専門人材。
それぞれが持つ知識や経験を生かし、一人の「先生」に依存しないスポーツ環境をつくっていく。
そのために、地域にある価値を見つけ、つなぎ、形にし、実践しながら改善していく。
部活動の地域展開は、学校部活動の仕組みを変えるだけではなく、地域で子どもたちのスポーツをどう支えていくのか、その仕組みそのものを考え直す機会なのではないでしょうか。
参考資料
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