育成とスポーツ環境
早く上手くなる選手と、長く成長し続ける選手は何が違うのか?
ジュニアスポーツでは、同じ年代でも、早い段階から高い競技力を示す選手がいます。
技術が高く、試合で結果を出す。選抜チームに入ったり、上のカテゴリーでプレーしたりする選手を見れば、「このまま将来も高いレベルで活躍するのではないか」と考えるのは自然なことです。
では、ジュニア年代で早く競技力を高めることと、その後も長い期間にわたって成長し続けることは、同じなのでしょうか。
トップアスリートの長期的な発達に関する研究を総合すると、ジュニア期の競技成績や早い段階での競技力向上だけでは、その後の到達レベルを十分に予測することはできません。
また、長期的な成長を考える際には、現在の技術や成績だけでなく、練習の中でどのように学んでいるか、心理面がどのように変化しているか、どのような環境で競技に取り組んでいるかといった複数の要素を見る必要があります。
この記事では、トップアスリートの発達に関する研究をもとに、「早く競技力を高めること」と「長く成長し続けること」の違いを整理します。
ジュニア期の成績は、その後をどこまで予測できるのか
2024年に発表されたシステマティックレビューとメタ分析では、幅広いオリンピック競技に取り組む13,392人を対象に、ジュニア期と成人期の競技成績の関係が調べられました。
両者の相関は平均で0.148でした。統計的には弱い関連で、ジュニア期の競技成績によって説明できる成人期の成績のばらつきは約2.2%です。
さらに、若い年代ほど両者の関係は弱く、年齢カテゴリー別では、ジュニア期の成績によって説明できる割合は0〜4.6%でした。
この結果から言えるのは、「ジュニア期の成績と成人期の成績はまったく関係がない」ということではありません。
ジュニア年代で高い競技成績を残していることだけから、その後の競技成績を強く予測することは難しいということです。
今の競技成績だけでは、長期的な成長は見えない
なぜ、ジュニア期の成績だけでは将来を予測しにくいのでしょうか。
理由の一つは、競技成績が技術だけで決まるわけではないことです。
ジュニア年代では、身体の成熟度、同じ学年の中での発達差、チームや練習相手のレベル、指導環境、出場機会、選抜機会など、複数の要因が試合結果に影響します。
成長期には、同じ年齢でも身体の大きさや成熟の程度に大きな差があります。身体的な成熟が早いことが、一時的に競技上の優位性につながることもあります。
そのため、現在の競技成績を、そのまま技術そのものや将来の潜在能力として見ることには注意が必要です。
試合で結果を出していることと、高い技術を身につけていること。そして、その先も競技力を伸ばし続けられること。
それぞれは関係していても、同じものではありません。
ジュニア期の成功と、成人後のトップレベルでは競技経験の傾向が異なる
2022年には、71研究・9,241人を統合したメタ分析が発表されています。
この研究では、「ジュニア年代で高い成績を残した選手にどのような競技経験が多かったか」と、「成人後に世界クラスへ到達した選手にどのような競技経験が多かったか」が、それぞれ分析されました。
ジュニア年代で高い成績を残す選手には、主競技を早く始め、その競技の練習を多く行い、比較的早く競技力を高めている傾向が確認されています。
一方、成人後の世界クラス選手を国内トップレベルの選手と比較すると、世界クラス選手には、若年期に他競技での練習経験が多く、主競技の開始時期が比較的遅く、若い頃の主競技の練習量が少なく、初期の競技力向上も比較的ゆっくりしている傾向がありました。
つまり、ジュニア年代で高い成績を残すことにつながる経験と、成人後に世界レベルへ到達した選手に多く見られた経験には、いくつか逆方向の傾向が確認されています。
ただし、この結果から「競技を遅く始めた方がよい」「複数競技を経験すればトップになれる」と結論づけることはできません。
これらの研究の多くは、選手が過去にどのような競技経験をしてきたのかを振り返って分析したものです。また、適切な専門化の時期は競技によって異なります。
研究から考えられるのは、ジュニア年代で高い成績につながりやすい競技経験と、成人後に世界レベルへ到達した選手に多く見られる競技経験は、必ずしも同じではないということです。
長期的な成長は、練習量だけでは決まらない
ここまで見てきたように、競技を始めた時期や若年期の競技経験だけでは、成人後の到達レベルを十分に説明することはできません。
では、主競技に費やす「練習量」そのものは、競技力とどの程度関係しているのでしょうか。
長期的な競技力の向上を考えるとき、練習量は無視できません。
一方で、「多く練習すればするほど、最終的に高いレベルへ到達する」と単純に考えることもできません。
deliberate practiceとスポーツパフォーマンスの関係を調べたメタ分析では、練習によって説明できるパフォーマンスの個人差は全体では約18%でしたが、エリート選手だけを対象にすると約1%でした。
もちろん、これは「練習量は重要ではない」という意味ではありません。
高い競技力を身につけるためには、多くの練習や継続的な取り組みが必要です。ただし、すでに高いレベルにある選手同士の違いを、練習時間の量だけで説明することは難しいことが示されています。
そこで、長期的な成長を考える上では、「どれだけ練習したか」に加えて、「その練習の中で何を学んでいるか」という視点も重要になります。
技術と心理は、別々に伸びるわけではない
アスリートの成長について考えるとき、「技術とメンタルのどちらが重要なのか」と比較されることがあります。
しかし、現在の研究を総合すると、両者を独立したものとして考えるより、互いに影響し合うものとして捉える方が適切です。
例えば、技術が向上し、「できるようになった」と感じることは、有能感や自己効力感につながります。その感覚が、さらに競技に取り組む動機や継続につながる可能性があります。
反対に、自分から課題に取り組み、練習を振り返り、方法を修正できることが、技術習得の質を高める方向も考えられます。
個々の関係については研究上の支持がありますが、「心理→練習→技術向上→自信→さらに良い練習」という循環全体が、長期的な因果関係として証明されているわけではありません。
それでも、技術と心理が別々に完成していくのではなく、相互に影響しながら発達していくという見方は、長期的な育成を考える上で重要です。
長期的な成長を支える「学び方」
長期的な発達を考える上で、一つの重要な概念が自己調整学習(Self-Regulated Learning)です。
自己調整学習とは、自分の課題や目標を理解し、練習中の状態を確認し、フィードバックや結果を振り返りながら、次の取り組み方を修正していく学習のプロセスを指します。
例えば、同じ2時間の練習をしている二人の選手がいたとします。
二人とも同じメニューに取り組んでいても、一人は練習を終えること自体が中心になっている。もう一人は、自分が何を改善しようとしているのかを理解し、プレーを確認し、うまくいかなければ方法を変えながら練習している。
練習時間は同じでも、その中で生じている学習まで同じとは限りません。
スポーツの研究では、高い競技水準にある選手ほど、目標設定、計画、自己観察、振り返り、評価などの自己調整学習を多く行う傾向が報告されています。
ただし、自己調整学習が高ければ将来トップアスリートになれる、と証明されているわけではありません。
むしろ重要なのは、自己調整学習を「才能を見抜く指標」とするのではなく、選手が練習からより多くを学ぶためのプロセスとして考えることです。
幼い年代では、大人が課題を示したり、一緒に振り返ったりする支援も必要です。成長に伴って、コーチや保護者が担っていた部分を、選手本人が少しずつ担えるようにしていくことが求められます。
成功体験だけでなく、「学べる経験」をつくる
子どもの育成では、「成功体験を積ませることが大切」と言われます。
できなかったことができるようになったり、努力が結果につながったりする経験は、自信や次の挑戦につながる可能性があります。
一方、長期的な成長という視点では、成功そのものだけでなく、成功までの過程にも目を向ける必要があります。
挑戦する。思うようにいかない。何が起きたのかを考える。やり方を変える。そして、少しできるようになる。
こうした経験を通じて、「自分で試し、修正すると成長できる」と実感することも、学習の一部です。
研究を統合すると、簡単に成功できる状況を増やすことが、そのまま長期的な適応力や学習能力を高めるとは限らないことが示唆されています。
もちろん、失敗が多いほどよいわけでもありません。必要な課題の難しさや支援の量は、年齢、現在の能力、自信、経験などによって変わります。
重要なのは、成功か失敗かという二択ではなく、経験から何を学び、次の行動をどう変えられるかという視点です。
育成で見るべきなのは、「今の強さ」だけではない
トップアスリートがどのように育つのかを研究しても、「この条件を満たせばトップになれる」という答えが見つかるわけではありません。
競技力の発達には、身体の成長、技術・戦術、心理面、練習、コーチ、親、仲間、選抜機会、傷害、生活環境など、多くの要因が関係します。
そして、それぞれの要因は長い時間の中で変化していきます。
今回参照した研究を総合すると、長期的なアスリート育成では、「今、誰が一番上手いのか」だけを見るのではなく、「選手がこれからも学び続けられる状態にあるか」という視点を持つことが重要だと考えられます。
早い段階で高い競技力を身につけ、その後も成長し続ける選手もいます。
一方で、ジュニア期には目立った成績を残していなくても、その後の経験や身体の変化、学び方、環境によって大きく成長する選手もいます。
ジュニア期の結果から将来を早く決めるのではなく、技術、身体、心理、環境が変化していく中で、その選手が長期的に学び続けられる環境をどうつくるか。
ジュニアアスリートの育成では、現在の完成度と同じくらい、そんな視点も大切にしていく必要があります。
参考文献
- Barth M, Güllich A, Macnamara BN, Hambrick DZ. (2024). Quantifying the Extent to Which Junior Performance Predicts Senior Performance in Olympic Sports: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Medicine, 54, 95–104.
- Barth M, Güllich A, Macnamara BN, Hambrick DZ. (2022). Predictors of Junior Versus Senior Elite Performance are Opposite: A Systematic Review and Meta-Analysis of Participation Patterns. Sports Medicine, 52, 1399–1416.
- Macnamara BN, Moreau D, Hambrick DZ. (2016). The Relationship Between Deliberate Practice and Performance in Sports: A Meta-Analysis. Perspectives on Psychological Science, 11(3), 333–350.
- Young BW, Wilson SG, Hoar S, Bain L, Siekańska M, Baker J. (2023). On the self-regulation of sport practice: Moving the narrative from theory and assessment toward practice. Frontiers in Psychology, 14, 1089110.
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